病院で医療事務スタッフとして働くときは、医事課に所属することになります。病院での業務内容は、大きく分けると診療業務とサービス業務の二つに分かれています。病院のサービス業務は看護師、検査技師などによる医療サービスと、医療事務による事務サービスの二つで成立しており、医事課はその事務サービスの中にあります。
病院での医療事務の仕事は、外来受付、入退院受付、会計というように分担されています。外来患者数も多く、効率のよい仕事をこなすことが必要とされるため、最近はとくに分業化が進んできました。このような分業制は、専門的に仕事ができる人を望んでいることが多いといえます。よい人材を外に求めるケースもあり、人材派遣や代行業者が病院内に入っていることも多く見られます。
受付窓口、会計窓口は患者が病院に最初に来院したときと、診療終了後通過する場所です。受付窓口は、初診受付と再来受付の二つに分かれており、初診受付では初めてきた患者の基本情報を収集、新患登録をします。再来受付は最近では自動的に受付するシステムを導入している病院が増えており、とくに人員を配置していないところが多いのが現状です。会計窓口は、診察終了後に診療費を精算する窓口です。病院では一番混み合う場所でもあり、早くに会計をすませて帰宅したいと思っている患者が多いので、正確かつスピーディに済ませることが必要です。また窓口業務は、患者から医療費などについて質問や相談を受けることもあるので、柔軟な対応ときちんと処理できる知識、能力が求められます。受付業務や会計窓口の応対によって、病院の印象も大きく変わるものです。日頃から言葉遣いや笑顔などに気をつけることが大切です。
医事課 | ||
外来業務 | 入退院 | その他の業務 |
新患受付 | 入退院受付 | 庶務業務 |
再来受付 | 会計業務(精算・診療報酬請求・収納) | 統計業務 |
会計業務(精算・診療報酬請求・収納) | 福祉業務 | |
その他 |
医院・診療所あるいはクリニックの医療事務は、総合病院と違い少人数で行います。受付から診察券の発行、カルテの発行、会計業務、院長や医師の秘書業務、看護師とのやりとり、場合によっては医院内の掃除もこなさなくてはなりません。仕事の種類が多いため、いろいろなことを瞬時に考え、パッと動ける要領のよさが必要です。また、医院の規模や患者数、医療事務スタッフの人数にもよりますが、多くの場合、総合病院に比べて一人ひとりにかかる仕事量の負担も大きくなります。そのため、医療事務の中でも、残業が多い職場といえるでしょう。医院・診療所の医療事務の仕事は、一つのことをじっくり行なうというよりも、オールマイティーにこなすことが多いもの。幅広く仕事を身につけてしまえば、どんな病院・医院でも通用するといえます。
医院・診療所の医療事務スタッフは、窓口という限られたスペースでほとんどの仕事をすることになります。つまりこの窓口で電話の応対、カルテ管理、レセプト業務などの業務全般が行われます。そのため、院内のステーション的役割を果たす場所といえるでしょう。
病院だけでなく、医院・診療所でも受付は自動システム化が進んでいます。患者は日程と時間を電話で入力、その場で診察の順番が確認できるようになっています。このことで、受付業務も予約表の作成や電話対応が省かれて効率化され、パソコン上の画面で予約を確認。カルテを取り出して患者を診察室に案内するという仕事の流れになってきました。最近では携帯電話からも利用でき、患者は順番が電話で確認できるので、待ち時間が少なくてすむところも増えているようです。
ほとんどの医院・診療所では、医療事務スタッフの人数が少ないため、事務処理の合間にも、患者の応対をすることがしばしば。たとえば、患者は自分の病状が気になるため、病気のことや診療費について尋ねてくることがあります。病気について答えるのは医師の仕事のため、軽率な発言は控えます。診療費に関しては、尋ねられた段階でわかることなら、きちんと説明。さらに、診察待ちの患者の中で、病状が悪化した人がいないかどうかも気にかけます。患者の気持ちを考え、うまくコミュニケーションがとれることも、医療事務になくてはならない魅力の一つでしょう。
歯科医院は、正式には歯科診療所といいます。歯科医師の場合、勤務医として継続的に病院に所属することは少なく、一定の期間を経て個人開業するのが一般的となっています。そのため、個人開業による小規模な歯科医院が多く、その数は増加傾向にあります。以前は歯科医院というだけで患者が来ましたが、今は、多くの歯科医院から自分に合ったところを患者が選ぶ時代。治療室の個室化やていねいな治療カウンセリング、審美、矯正など、あらゆるサービスの向上に努める必要があります。
歯科医院は個人開業が多いため、ほとんどの場合はとくに部門にわけて仕事をしているわけではありませんが、あえて分けるとしたら、診療部門と事務部門の二つにわかれます。医療事務スタッフは、事務部門に含まれます。
歯科医院では、医療事務スタッフはまず最初に受付業務を担当します。その仕事の内容は多岐にわたり、初診患者の保険証の確認や診察券の発行、カルテの作成、診察室への案内、待合い室の清掃、電話の応対、予約スケジュールの管理、会計まですべて、小規模の歯科医院の場合は一人で行います。また、患者の質問や不安に応える努力をし、歯科医や歯科衛生士が診療を専念できる環境を作ることも大切です。
窓口業務のほかに、歯科医院ならではの業務に歯科助手という役割があります。歯科助手は、歯科医院では医療事務スタッフの別名ともいえます。受付業務をしながら、診察室に入って、患者に膝掛けをかけたり、荷物を預かったりします。患者の口腔内に触れてはいけませんが、歯科医や歯科衛生士の補助的な業務を行うことはあります。
最後に忘れてはならないのが、やはりレセプト業務です。歯科医院では、一般診療所に比へて、自由診療の割合が高いのが特徴ですが、それでも、収入の大部分を占めるのが保険医療です。そのため、毎月の診療報酬請求は、経営上大きな意味を持ちます。レセプト作成の基になる患者の情報や診療内容などのデータを日々しっかりと管理し、レセプト(診療報酬明細書)を作成する必要があります。
院長 | |
診療部門 | 事務部門 |
歯科医師 | 医療事務 |
歯科衛生士 |
医薬分業化が進み、最近ほとんどの病院や診療所では、処方せんを発行し、それを患者が調剤薬局に持参して調剤してもらうという、院外処方が定着してきました。そんななか、調剤薬局をフランチャイズチェーン展開する会社や、調剤薬局を併設するドラッグストアも増えています。そのため、調剤事務を担う医療事務の存在が注目されています。
薬を扱えるのは薬剤師だけと法律で決められています。一般的に、調剤薬局では、業務部門が管理薬剤師を筆頭に、薬剤部門と事務部門にしっかり分けられています。調剤薬局で働く医療事務スタッフを、調剤助手と呼ぶこともあります。通常、調剤事務1店舗につき2~3人の事務スタッフが配属されことが多いようです。
調剤薬局での医療事務の仕事は、患者が持参した処方せんを受け取ることから始まります。初めて来た患者には、住所や氏名などを聞くほか、現在服用している薬はないか、薬の副作用を伴ったことはないか、大きな病気をしたことがないかを確認しながら、コンピュータで病院のカルテにあたる薬歴簿を作成します。処方せんは薬剤師がいる調剤室に回し、薬剤師が確認した処方せんの内容をコンピュータに入力し、調剤報酬の算定を行います。調剤薬局によっては、お薬手帳といって、薬の効能などが記載されたラベルを貼った冊子を患者に渡します。薬剤師が患者に薬の飲み方などの説明を行った後、会計をします。もちろん調剤薬局でも、毎月末に調剤報酬を保険者に請求するので、レセプト業務は欠かせません。
大学病院などの大きな病院では、左ページのように、診療部門、看護部門、薬剤部門などに分かれます。その中でも、診療部門なら内科、外科~、看護部門なら病床課、外来課~というように細分化されます。医療事務は、事務部門の中の医事課になります。病院によっては、医事課の中にさらにカルテを管理する医療情報管理室などがあります。
大病院の1日の平均患者数は、300人を超えます。その患者と最初に接するのが、外来受付窓口を担当する医療事務スタッフです。初診患者であれば、保険証を確認し、診察券を発行することから始まり、カルテの発行、診察室への案内、診察修了後の医療費の算定、会計までを行います。患者がもっとも接する機会の多い受付は、病院のイメージを左右する重要なポジションといえます。
大学病院などの大きな病院では近年、オーダリングシステムを導入するところが増えています。このシステムは、診療内容を医師がコンピュータに入力することによって院内LANで検査部や放射線部、看護部などに伝わると同時に、医事会計コンピュークにも自動的に伝わるというものです。さらに、診療報酬の算定、一部負担金の算定も瞬時に行われます。ただし、診療側の入力もれがないかをチェックするのは医療事務スタッフの役割です。
大学病院には多くの入院患者がいます。そのため、忙しい看護師の事務的なサポートをするのが病棟クラークです。入院カルテの整理はもちろん、ナースコールや電話応対、用度品の管理や発注など、入院病棟全体をサポートする仕事です。診療内容やそれに伴う費用についての相談を患者から受けることもあります。
院長 | |||
副院長 | |||
診療部門 | 事務部門 | 看護部門 | 薬剤部門 |
内科 | 総務・人事課 | 病床課 | |
外科 | 経理課 | 外来課 | |
小児科 | 用度課 | 手術室 | |
整形外科 | 医事課 | 救急部 | |
皮膚科 | ↓ | ||
消火器科 | 医療情報管理室 | ||
産婦人科 | |||
耳鼻咽喉科 | |||
眼科 | |||
泌尿器科 | |||
麻酔科 | |||
リハビリテーション科 |
休日や夜間だけ患者を受け入れる救急診療施設を、地域の医師会などが中心となって運営しているケースがあります。診療科は内科、小児科が中心で、発熱や下痢程度の軽い病気を治療します。症状の重い患者は、大きな病院の救急外来へ回されます。救急診療施設の場合、勤務時間は一般の病院や診療所とは異なるのが特徴です。運営しているのが企業ではないため、求人広告は利用されないこともあります。医療事務スタッフの募集があるかどうかは、医師会のホームページなどにアクセスしてみるとよいでしょう。
近年、経営合理化のために医療事務業務をアウトソーシング(外部委託)する医療機関が増えています。これを請け負うのが医療事務代行業者(派遣会社)です。実際の業務は、病院などの医療機関で行いますが、あくまでも医療事務代行業者のスタッフであって、病院の職員になるわけではありません。また、医療事務代行業者が、自分のスキルに合った勤務先を斡旋してくれるので、自分で探すよりも効率的です。また、医療機関の要請に応じて、インストラクターを派遣してレセプト業務のレクチャーをするなど、ほかの職場にはない業務もあります。医療事務のスペシャリストとして認められる、新しいタイプの職場といえるでしょう。
レセプトは医療機関から審査支払機関を通じて、健康保険組合などの保険者に提出されます。保険者は過誤請求を防ぐため、レセプト点検業務を行います。このレセプト点検業務を行う部署や代行業者も、医療事務スタッフを必要とする職場です。国民健康保険は地方自治体が保険者であるため、市町村役場などがレセプト点検職員を賭場することもあります。