医療事務の仕事で欠かすことができないのが、請求業務です。請求業務は、病院、診療所、調剤薬局など、いわゆる保険証を扱う機関では必ず発生する業務です。これらの機関での収入は、全てこの請求業務すなわちレセプト作成と一部負担金の算定からなっています。この請求業務は、医科系(介護系を除く)においては診療報酬点数制度に基づいて算定されます。この診療報酬点数制度では、診療行為の全てが「点数」で規定されています。通常は、1点=10円です。例えば初診料は270点(平成18年度改正)と定められていますが、金額に置き換えると2700円ということになります。一部負担金とは、皆さんが医療機関の窓口でお支払いになるお金のことになりますが、このケースの場合、2700円の3割を負担することになり810円を窓口で支払うことになります。
●初診料270点=2700円→診療費の全体としてレセプトに記載。
●一部負担金(3割負担)→1810円を窓口で支払う。
※レセプトでは、診療費の全体の点数を記載し提出しますが、実際に保険者から医療機関に振り込まれる診療費は、一部負担金を差し引いた金額となります。
初診料を例に説明しましたが、このように行った診療行為を点数に置き換える方法を出来高算定と呼んでいます。これに対して、一部の診療を医学管理等に包括したり、請求全体を包括的に請求する方法を包括算定といいます。例えば、次のような診療が行われたとしましょう。
40歳の男性が、高血圧症にて一般的な病院(70床)で内科を受診(再診したものとする)。定期的な診察と薬を14日分処方され日常生活に必要な指導を受けた。また、院内でお薬をもらいお薬に対しての指導を受けた。
出来高算定の場合
・診察(基本診療科)
再診(57点)+外来管理加算(52点)=109点…A
・医学管理等
特定疾患療養管理料(147点)+薬剤情報提供料(10点)=157点…B
・投薬
薬剤料(112点)+調剤料(9点)+処方料(42点)+調剤技術基本料(8点)…C=171点
・出来高算定の会計点数A+B+C=437点=4370円
一部負担金は3割負担なので4370円×0.3=1310円
包括算定の場合
・診察(基本診療科)
再診(57点)+外来管理加算(52点)=109点…A´
・医学管理等
生活習慣病管理料(1310点)…B´
・包括算定の合計点数A´+B´=1419点=14190円
一部負担金14.190×0.3=4260円となります(平成18年改定点数による)。同じ診療を受けた場合でも、算定方法によって大きく診療費が異なることが分かります。
このケースの場合は、包括算定の方が診療費が高くなっていますが、一概にそうとは言えません。今回の算定では、包括算定した場合については診察料は同じですが、医学管理等の項目に違いが見られます。包括算定で上がっている「生活習慣病管理料」を算定することにより、その他の医学管理等や投薬料が算定されていないことが分かります。この生活習慣病管理料を算定する場合は、「医学管理等・投薬・注射・検査は別に算定することができない」と規定されています。したがって、今回は包括算定をした場合の方が診療費は高くなりますが、投薬や注射の実施回数が多かったり検査を多く行った場合などは、出来高算定の方が診療費が高くなる場合もあります。また、生活習慣病管理料は同一月に1回しか算定することができないことになっています。診療点数は多くの場合、同一月を1つの単位として算定することが多く、1カ月の合計点数を比較すると一概に包括算定をした場合の方が診療費が高いとは言えないことになります。このように診療報酬の算定には、「出来高算定」と「包括算定」があることを理解しておいてください。
ちなみに、どちらで算定するかは各医療機関の判断で決めることになっています。このような判断をするうえで医療事務職員の役割はとても重要と言えます。医師は医学のプロです。したがって全ての医療行為については医師の指示が必要となります。当然のことながら、診療報酬の算定についてもレセプトには医師の氏名を記載して提出しますので医師の判断と言えます。しかし、医師の指示で行われた診療をどのような方法で点数に置き換えるかには医事課すなわち医療事務職員の高度な診療報酬制度の知識が必要となります。初歩的なミス(職員の知識不足など)が原因で、かなりの金額の算定漏れが発覚するそうです。全てが医療事務職員の知識不足が原因とは言えませんが、大きく関係していることは間違いのない事実です。皆さんにはぜひ「質の高い医療事務職員」をめざしていただきたいと思います。
一部負担金については患者さんが医療機関へお支払いになるお金の事を言います。このことを専門的には、患者負担率と呼び、皆さんがお持ちの保険証によって細かく定められています。社会保険や国民健康保険の単独なのか?老人保健の受給対象者か?公費負担の対象者か?などによって窓口での支払い金額は大きく異なります。医療事務職員はこのような知識も基本的なこととして理解しておく必要があります。
医療機関において診療を受けた場合に、1カ月に支払う自己負担金の上限が定められています。これを高額療養費制度と言います。現在は、上位所得者、一般、低所得者の3段階に分かれ定められています。ここでの上位所得者とは、月収53万円以上の者を言い、低所得者とは、市町村民税非課税者などを指します。この高額療養費制度は、診療費のみが対象となります。したがって、入院治療を受けた場合などで発生する、食事療養費やベッド代の室料差額(本人の希望により個室などに入った場合に発生します)などは対象となりません。また皆さんが加入している医療保険によって制度の一部が異なります。社会保険の場合は、いったん、医療機関では一部負担金の全額を支払い、その領収書を持って保険証を発行している保険者に申請し差額分が還付されます。これに対し、国民健康保険では、市町村によって委任払い制度があります。この委任払い制度については、医療機関におおよそ掛かる医療費を記載してもらい、事前に保険者へ申請しておくことにより、医療機関の窓口でも高額療養費の対象となる部分の支払いはしなくてもいいことになります。これらの制度については、保険者によって内容が異なります。実際に対象になりそうな場合は、事前に確認するようにしましょう。本来、医療機関でも案内をすることが望ましいのですが、積極的に案内をしているケースは少ないようです。これにはいくつかの理由がありますが、医療事務職員としては患者さんに質問されても困らないように知識を持つことが必要です。
入院して治療を受ける場合は、院内にて食事の提供を受けることになります。これを入院時食事療養費と言います。かなり以前は、入院で提供される食事についても診療費に含まれていましたが、現在は、診療費とは別に支払うことになっています。患者さんが医療機関で支払う費用は、次頁表①のように定められています。これはあくまで医療機関に患者さんが支払う費用であって医療機関が得られる費用の全額ではありません。医療機関は、患者さんに食事を提供した場合、次のような費用を算定することになります。入院時食事療養費は「入院時食事療養費Ⅰ」と「入院時食事療養費Ⅱ」の二つに分かれています。入院時食事療養費Ⅰ」を届けている医療機関の方が高い金額を請求することができます。 では、実際の計算方法を見てみましょう。
〔例1〕、「入院時食事療養費Ⅰ」を届けている医療機関に10日入院し、1日3食の食事の提供を受けた。また、そのうち10食は糖尿病に対する特別食の提供であった。
・食事費用
1食640円×3食/日=1920円
1920円×10日=19200円
76円(特別食)×10食=760円
19200円+760円=19960円
医療機関が請求できる食事療養費は、19960円となります。このうち、患者さんに負担していただく費用は、260円×30食=7800円となります。
〔例2〕、「入院時食事療養費Ⅰ」を届けている医療機関に10日入院し1日3食の食事の提供を受けた。
・食事費用
1食640円×3食/日=1920円
1920円×10日=19200円
医療機関が請求できる食事療養費は、19200円となります。このうち、患者さんに負担していただく費用は、260円×30食=7800円となります。
この計算をみて何か気付かないでしょうか?
〔例1〕では、特別食が提供されているため、医療機関が請求できる金額は1万9960円となっています。それに対して〔例2〕は、特別食の提供がされていないため、1万9200円となっています。しかし、患者さんが負担する費用は同額なのです。食事療養費の患者負担については、食事の内容にかかわらず一定となります。このことは、食事療養費ⅠとⅡでも当てはまります。食事療養費ⅠとⅡは、医療機関が請求できる費用が異なりますが、患者さんが負担する金額は同じです。食事に対する加算は、特別食加算以外にも、食堂加算などがあります。また、選択メニューを提供した場合などは「特別メニューの食事」として患者さんから別途に費用を徴収することも認められています。医療事務職員としては、実際の食事代や患者さんの負担に関する知識だけでなく、医療機関が行う届出などについても理解する必要があると言えます。